問題意識から先を見据える「FUJITSU JOURNAL」の 顧客起点のマーケティング戦略 <後編>
前編では、コンテンツマーケティングの取り組みを始めたきっかけから富士通株式会社のオウンドメディア「FUJITSU JOURNAL」のコンテンツ戦略までを語っていただきましたが、後編では鼎談形式でNewsCredのサービスを採用した経緯や導入による効果、今後の展望について語っていただきました。
トレンド情報を適度な距離感で使えるNewsCred
駒村: 前々から、アマナさんには「FUJITSU JOURNAL」のオリジナル記事制作でご協力いただいていましたが、その延長で「ライセンスドコンテンツに興味はありますか?」というところからでしたよね。
釜田: はい、2016年の10月だったと思います。NewsCredを日本に持ってこようとしていた時期でした。
駒村:その時、「FUJITSU JOURNAL」にピッタリなのではないかと言っていただいて。私たちも、お客様視点でコンテンツを作っていましたが、その先を考えたときに、富士通を離れた第三者の視点で世の中のトレンドを紹介する記事の必要性を感じていました。そこで、適度な距離感のあるライセンスドコンテンツに興味を持ったのです。
釜田: まだNewsCredと独占契約を結ぶ前のプレセールスという段階でしたが、富士通さんに真っ先に手を上げていただけてよかったと思います。
駒村: ちょうど、当初からの私たちの目的であり課題でもあった、コンテンツ起点でお客様とのコミュニケーションを深めていこうという流れに合っていたからです。
効果がなければ止めてもいいというくらいの気持ちで始めました。最初は、英語の記事の日本語訳をどうするか考えなくてはなりませんでしたし、NewsCredが用意しているコンテンツの工程管理システムであるCMPも使いませんでした。私たちもオリジナルコンテンツを作ってきた方法や運用方法を持っていましたから、必要な高品質なライセンスドコンテンツを利用することから始めたのです。記事の選定やわかりやすい日本語化に関しては、高橋が試行錯誤しながら頑張ってくれました。
釜田: コンテンツの質にコミットするのは、アマナのDNAですので、確実かつ最良のものをお届けしたいというのは譲れないところです。本国のNewsCredはマーケットドリブンなサービスですが、もともとジャーナリズムから始まっていて、コンテンツもジャーナリズムやクリエイティブレベルのクオリティに合わせています。そこが担保されないと、コンテンツマーケティングも空虚なものになってしまいますから。
株式会社アマナデザイン コンテンツマーケティングアドバイザー(CMAS)の釜田俊介
社内でも評価されるブランド認知への寄与
駒村: 実績においても、「FUJITSU JOURNAL」は富士通のブランド認知に寄与しています。社内でも多くの人が「富士通の活動を知っていただく場所としていいですね」と言ってくれますし、B2B向けのデジタルマーケティングの観点からも、ビジネスにつながる確度が高いホットリードの見込み客の検討初期段階の接点として貢献していることがデータで表れています。
お客様が新たにソリューションを導入しようと情報を求める中で、「FUJITSU JOURNAL」に接していたケースが多いこともわかっていますので、中・長期的な情報収集や検討の過程でも有効に働いていると考えています。
釜田: サイトのPVに関して、NewsCredの数字面での貢献はどれくらいでしょうか?
高橋: 2018年のデータですが、「FUJITSU JOURNAL」全体のPVの上位にもNewsCredからの記事は入っています。お客様の興味に寄り添うという意味で、検索結果からの流入を強化していますが、自分たちでは作れないコンテンツをNewsCredで補うようになってから、オーガニックの流入でもNewsCredの記事がアクセス上位ランクインするようになりました。
もちろん、ただ記事を見て終わりだと有効であるとはいえませんが、2ページ目以降の遷移を辿るとオリジナルコンテンツも読んでいただけていますし、カスタマージャーニーの分析でも、NewsCredの記事をきっかけにして富士通の企業サイトでより深い情報をご覧いただけていることもわかっていますので、全体的に貢献度が高いなと。
釜田: 過去2年くらいのパフォーマンスデータを拝見しますと、オーガニックのベースがかなり跳ね上がっています。Googleが評価する基準として、E-A-T(イート)と略される指標がありますが、これはそれぞれ専門性、権威性、信頼性の頭文字をとったもの。この3つを満たすことがランキングでも重視されますが、記事内で使われる専門的で客観性のある言葉の数が増えたことが、結果にも反映されているのでしょう。
駒村:「FUJITSU JOURNAL」を立ち上げた当初は記事の更新頻度が少なかったのですが、最近になって公開記事が加速度的に増えています。NewsCredのライセンスドコンテンツはすでに300ほどあり、オーガニック流入にも貢献している形です。
釜田: オーガニックを増やすにも、テクニックに走ってしまうとGoogleは評価してくれません。必要とされるキーワードは意識しながらも、しっかりとしたコンテンツを発信していることが意味を持ちます。
作業効率アップとコミュニケーションの向上をもたらしたCMP
高橋: 今年度からCMPの利用も開始しましたが、もっと早く使い始めればよかったなって。
今までは企画にしても、コンテンツのスケジュールにしても、すべてExcelで管理していたのでとても煩雑でした。CMPはインターフェースが英語なので、中には少し使いにくいと感じている日本人スタッフもいますが、企画からスケジュール管理までが1つのプラットフォームで完結できる点は本当に素晴らしいですね。外部の制作会社の方ともCMPで連絡や素材の共有、スケジュール変更がリアルタイムで行えるため、全体のワークフローの効率が大きく改善しました。
今では日本チームとグローバルチームが双方でCMPを活用しています。日本の記事を英訳してグローバルのブログで発信することもありますが、以前はスケジュールの見える化ができておらず、グローバルチームは急にファイルが送られてきて公開日を知らされたと感じることも多かったようです。CMPを導入してからはスケジュールもきちんと共有できるようになりました。
釜田: 日本と海外とで、コンテンツに対する考え方の違いを感じることはありますか?
高橋: 日本で富士通といえば、少なくとも会社名やIT系の企業であるとことをご存知かと思います。しかし、海外では、まだ富士通という存在自体が知れ渡っていません。そのため、海外で「富士通が…」というコンテンツを発信しても、日本より伝わらないので、日本以上にお客様の知りたいことを中心に情報発信することの必要性を感じています。そういう観点でも、NewsCredのライセンスドコンテンツについてはどのチームも非常に興味を持ってくれました。海外のマーケティングチームはもちろん、業種マーケティング担当のチームも、ぜひ使いたいと言っています。海外の拠点では情報も少なく、自分たちでトレンドを紹介するコンテンツを作ることができないため、そういう声が増えるのでしょう。
日本では、実際にライセンスドコンテンツの導入によって効果を得ることができたので、その実績を踏まえて海外のチームにも薦めることができます。弊社は事業領域も多岐にわたるので、テーマがたくさん揃っているNewsCredとの相性は抜群です。ある領域で最新の話題もあれば、最新のデジタルトレンドについての用語解説のような普遍性の高いコンテンツもあるという具合にバラエティも豊富で、まさに「使える」コンテンツだと感じています。
釜田: 次のトレンドとしては、「ゼロパーティデータ」と呼ばれる、顧客に関する解像度の高いデータの活用が注目されていくことになりそうです。たとえば動画配信サービスでいうと、個々のユーザーの視聴データがそれにあたります。サービス提供者や広告主が自動的に取得するデモグラフィック寄りのファーストデータや、第三者に依頼して集めるサードパーティデータとは異なり、ゼロパーティデータは、コンテンツを通じて消費者一人ひとりの行動形態がわかるようなものです。
ブランドとしては、コンテンツの質と量を揃えて企業価値を発信していかなくては、読者の同意の下にきちんとしたゼロパーティデータを取得することができなくなります。その結果、広告の限界とコンテンツのメリットが明確になるような変化が起きるでしょう。
駒村: 私たちとしても、コンテンツの質をもっと上げていきたいですし、内容的にも驚きのあるものを提供したいですね。ゴルフや駅伝をはじめ、弊社が協賛しているスポーツイベントなどでも、今まで以上に富士通のテクノロジーを取り入れることで観戦の体験を変え、そういったテクノロジーを活用した新しいリアルの体験を「FUJITSU JOURNAL」で取り上げるといった流れが必要になってくるかもしれません。
大きなビジョンとしては、統合的なマーケティングコミュニケーションで、お客様の体験をより良いものにしていくことを掲げていますので、社内のさまざまな人たちと協力しながら実現を目指したいと思っています。
釜田: 富士通さんの場合、すべてのマーケティング活動においてDX(デジタルトランスフォーメーション)化しつつある点が企業のあり方とマッチしていて、非常に美しいと感じられます。
企業価値を体現するコンテンツが広がれば、その企業はある意味で丸裸の状態になります。そうして、競争が公平なものなっていくことは、社会にとっても良いことではないでしょうか。そこで差がつくのは、やはり情熱があるかどうかだと思います。
駒村: 私も高橋も、コンテンツに情熱を持って取り組んできましたし、これからもそうしていくことが、あるべきビジョンの実現につながるものと信じています。
お話を聞き終えて
オリジナルコンテンツとライセンスドコンテンツを組みわせて、オンラインと冊子の両方で質の高い記事を送り出し続けている「FUJITSU JOURNAL」は、コンテンツマーケティングの王道を歩んでいるように感じられます。しかし、インタビューによって明らかとなったのは、その根底に、ユーザー起点のコミュニケーションのあり方を真剣に考えるという骨太の方針があったことです。もちろん、それを支える優れたスタッフの存在や、NewsCredのCMPによる作業の効率化と国内外のチーム間のコミュニケーションの深化も重要な役割を果たしていますが、すべての根幹にあるマーケティング姿勢とコンテンツ構成は、他の多くの企業にとっても大いに参考になるものと確信しました。
>>前編を読む
●Interview & Text : 大谷 和利
●Photos : 川合穂波