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大事なのはペルソナの共有。IBM「Mugendai」流のプロとのタッグの組み方とは

日本アイ・ビー・エム株式会社のオウンドメディア「Mugendai(無限大)」は、1969年に同社が創刊した企業広報誌が前身です。現在のWeb版は2013年にスタートし、さまざまな業界でチャレンジする先駆者へのインタビューを中心に、イノベーションを切り口にした知的好奇心をくすぐるコンテンツが掲載されています。

そんなMugendaiのメディア戦略や企画の作り方、運営体制はどのように構築されているのでしょうか。ブランド推進・宣伝担当部長の植田久美(うえだ・くみ)さんにお話しをお訊きすると、IBMのブランド戦略を軸に、編集のプロフェッショナルとタッグを組んだメディア運営の裏側が見えてきました。本記事ではそのインタビュー内容をお伝えします。

 

Mugendaiは「土壌づくり」の場

本日はよろしくお願いいたします。Mugendaiは「イノベーションを触発するデジタルメディア」をコンセプトとされていますが、紙からデジタルに移行するにあたって、コンセプト変更されたのはなぜでしょうか?

植田久美さん(以下、植田):IBMはテクノロジーで企業や組織のイノベーションを支援し、社会をより良くしていくことを目指しています。冊子の時代のMugendaiはおもにITの担当者を対象とし、「ITと社会の架け橋」を掲げていました。しかし現在、社会にとってITは、もはや「架け橋」が必要になるようなビジネスから距離のあるものではなく、イノベーションの実現に不可欠な存在となっています。IT部門のみでなく、あらゆる部門や企業でテクノロジーを活用したイノベーション創出が求められている中、デジタル版では対象を広げ、「イノベーションをインスパイアする」ことを軸にコンテンツを発信しています。

 

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日本アイ・ビー・エム株式会社 マーケティング&コミュニケーション

ブランド推進・宣伝 担当部長の植田久美さん

–Mugendaiの戦略上の位置づけはコーポレート・ブランディングになるのでしょうか。

植田:その通りです。マーケティング戦略の中でリードジェネレーションが「刈り取り」だとしたら、ブランディングは「土壌づくり」のイメージです。イノベーション創出にチャレンジしたい方々にコンテンツでリーチし、広く土壌を耕していく。実際に彼らがアクションするときは、必ずテクノロジーが必要になってきます。そのパートナーとしてIBMをご検討いただければと思います。

また、Mugendaiはドメイン自体もibm.comの配下にはなく、外向きの媒体として位置づけています。一方、コーポレートドメイン内には、ビジネスの変革を考えるヒントをお届けする「Think Business」やIBMの取り組みを紹介する「Think blog」、旬な技術テーマを取り上げた技術情報誌「ProVISION」などがあります。これらのメディアを通じて、ファネルごとに適切なコミュニケーションを図ることを目指しています。

 

コンテンツの軸は「Forward Thinker」

土壌づくりとしての企業ブランディングを行うのがMugendaiの役割とお話されましたが、具体的にはどのような読者を想定されているのでしょうか。

植田:IBMのブランドストラテジーにおいて、ともにイノベーションに取り組む方々を「Forward Thinker」と定義しています。デジタル版のMugendaiを立ち上げるにあたり、この「Forward Thinker」とはどんな人かを編集チームとともに議論し、次の3つの要素で表されるような人を想定しました。

1.実現したい未来がある。

2.イノベーションに興味関心がある。

3.自らチャレンジをしている。

ビジネスにおいて成し遂げたい将来像があり、イノベーションによる価値の実現に向けてチャレンジをやめないバイタリティに溢れる人物。この「Forward Thinker」をもとにして、今の時代における具体的なペルソナ像を編集チームとともに設計しました。

 

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その編集チームはどのような体制を組まれているのでしょうか。

植田:もともと冊子のMugendaiで記事の企画・編集を担当していたインフォ・クリエイツさんと、デジタルコンテンツの制作に強いインフォバーンさんの2社と協業してチームを組んでいます。全体のフローは、2社にコンテンツの企画と制作をお任せし、IBMがレビューする流れです。このように3者間でコンテンツを作っていく体制のため、コンテンツの方向性が食い違わないように拠り所となる軸を作る必要がありました。それが「Forward Thinker」をもとにしたペルソナです。設計のディスカッションからともに行ったことで、編集チームの価値観がすり合い共通認識も深まりましたね。

では、読者にコンテンツを届けるためにどのような施策を行っているのでしょうか。

植田:RSSフィードを受け取るツールとしてFeedly、SNSはFacebookを活用しています。これは継続してMugendaiを購読してもらい、メディアのファンになってもらうことを狙った施策です。一方で、SEOは単なる集客に留まりやすく、継続した購読につながりづらいと考えているため、積極的な施策は行っていません。

短期的な集客ではなく、長期的なファン化を重視されているということですね。これはサイトのUX/UIにも反映されているのでしょうか。

植田:はい。ファン化につなげるため、サイトは回遊性にこだわって設計しています。記事に興味を持ってサイトを訪れた人に対して、他の記事も見せることができるのがメディアの価値だと思います。そのため、タグで記事を管理するサイト構成にして、興味関心軸でサイト内の回遊数を上げることを狙いました。また、うち出したいキーワードを「PICKUP WORDS」としてサイトトップに配置しているのも、回遊数を上げるための施策です。

 

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Mugendaiトップページのキャプチャ画像。

「PICKUP WORDS」をクリックすると関連記事一覧に飛ぶ仕掛けとなっている。

企画のための3つのカテゴリーとは

コンテンツの企画から制作までの具体的なステップを教えてください。

植田:まず、編集会議を月に1回の頻度で行います。そこで各社からの案をディスカッションして企画を決定し進めていく流れです。コンテンツの本数は、インタビュー記事が4本、アメリカのIBM本社が発表したコラムを編集したものが3本、合計7本を毎月制作しています。コラム記事には、たとえば『ダイバーシティー実現のためにできること――あなたも「Be Equal」を宣言しませんか?』などが挙げられます。

インタビューの対象者は、イノベーションに携わる方々を選定されているのでしょうか。

植田:それももちろんありますが、具体的には「社会課題解決」「イノベーター」「テクノロジー」の3つのカテゴリーがあり、それぞれのカテゴリーで提案いただいています。先述した「Forward Thinker」をもとにすれば、イノベーターだけでなく社会課題解決に携わっている方も取り上げるべきだと考えているためです。また記事や企画の決定に際してはダイバーシティの視点も含めて検討しています。

 

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「テクノロジー」は、新しいことに取り組む際に必ず必要となるものです。たまたまIBMのテクノロジー活用事例が話題になる場合もありますが、それがすべてではありません。これら3つのカテゴリーを踏まえて、これまで芸術家の方、研究者の方など様々な方に取材してきました。その中でもっとも多く読まれた記事は、『近赤外線でがん細胞が1日で消滅、転移したがんも治す ――米国立がん研究所(NCI)の日本人研究者が開発した驚きの治療とは』でした。

 

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植田:2016年に公開した記事ですが、累計で93万PVにまで達しました(2019年12月時点)。Facebookのいいね数も大幅に伸びた事例です。このように「イノベーター」だけに留まらず、つねに新しいことに挑戦しながら世の中をより良くしていこうとする取り組みを紹介することで、読んだ方々がインスパイアされ、自分の仕事に取り入れてみようかなと思っていただければいいなと思っています。

最後に、今後Mugendaiを通して実現したい目標について教えてください。

植田:インタビューでお話しを伺って感じるのは、取材対象者にとてもエネルギーがあるということ。ですので、その方の言葉の重みや熱量をリアルに伝えるため、インタビューの模様を動画で配信することも考えていきたいですね。また、Mugendaiをコミュニケーションプラットフォームとして活用を広げていきたいと考えています。つまり、「Forward Thinker」に向けたコンテンツを提供して反応を得て、IBMのビジネスとして次はこれをやるべきではないかといった提言を社内に戻していくような取り組みです。このような相互のコミュニケーションが生じる場としてメディアをより進化させ、イノベーションの触発につなげていければと思います。

 

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編集のプロフェッショナルと協業するチームづくりがとても印象的でした。その際の軸として「Forward Thinker」とペルソナを言語化し、ブランドの意図を明確にされていることがコンテンツ力につながっているのでしょう。本日は貴重なお話を、ありがとうございました!

 

●Interview & Text : 弥富 文次

●Photos :  川合穂波

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