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オウンドメディアで業界の論点を整理する。コクヨ「WORKSIGHT」の未来を提示する企画の作り方とは

コクヨ株式会社が運営する「WORKSIGHT」は、働く環境を考える企業キーパーソンに向けたワークスタイル戦略情報メディアです。1988年に創刊されたオフィスの先進事例を紹介する雑誌「エシーフォ(ECIFFO)」を前身とし、2011年に後継誌として誕生しました。コンテンツの中心となっているのは、実際に海外まで足を運んで取材している先端事例の紹介記事。濃密なコンテンツづくりを主導している編集長の山下正太郎さんに、WORKSIGHTの世界観や伝えたいメッセージ、コンテンツの企画法についてお話しをうかがいました。

 

WORKSIGHTの3つの目的とは

山下正太郎さん(以下、山下):いま、ハード面であるオフィスの変化や、ソフト面であるワークスタイルの変化があらゆるところで起こっています。WORKSIGHTはそうした情報の最前線を伝えています。メディアを通じて、日本のワーカーがワークスタイルのイメージを膨らませ、働く環境づくりのリテラシーを高められることを一番のプライオリティにしています。

 

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コクヨ株式会社 クリエイティブセンターで主幹研究員/WORKSIGHT編集長を務める山下正太郎さん。

京都工芸繊維大学では特任准教授として教鞭を執っている。

 

山下:日本のワーカーは1社に長く勤める傾向にあるので、そこでのワークスタイルのイメージしか持てないことが多い。また、日本はものづくりのカルチャーが強いため、工場で行われるような効率や規律を重視した思想にもとづいて、オフィス設計がなされることも少なくありません。こうした理由から、日本のワークスタイルやオフィスに対する視野が狭くなってしまうんですね。メディアを通じて多面的かつ鮮度の高い情報を伝えることでワーカー自身が新たな視点を増やし、日本の働く環境を良くしたいと思っています。

–– メディアの大目的は「日本のワーカーの視野を広げること」。さらに、別の視点からの目的が2つありました。

山下: 第二の目的は、ビジネスのより上流にアプローチすることです。コクヨのメインビジネスのひとつがオフィス家具の製造・販売です。それはオフィスづくりの工程の中で下流に近くなってきます。一般的にビジネスの下流になるほどコストや期間も厳しく、企画の自由度が小さくなりがちです。

上流のコンセプトフェーズにアプローチできれば、コクヨが培ってきたオフィスづくりの知見や技術を最大限に活かすことができる。そのために最先端の情報を発信しクライアントに対するフックを作っています。第三の目的は、コクヨの研究開発につなげること。WORKSIGHTの活動はコクヨの研究開発部門がリードしていますが、メディアであれば取材という体裁で最先端の働く現場を体験できます。そこでリアルに感じるトレンドが研究開発のディテールに活かされるわけです。

 

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–– WORKSIGHTのデザインは白と黒を基調とし、シンプルながらも洗練されています。

山下:オフィスやワークスタイルはビジネス誌の中で取り上げられることが多いですが、誌面のデザイン的にはちょっと……と思うものも少なくありません。だからこそ、WORKSIGHTでは海外オフィスの空気感がダイレクトに伝わるよう、クオリティの高いデザインにこだわっています。さらに私たち自身は旅するような感覚で取材先に訪問していて。だからこそ、その旅の雰囲気が見えてくるような、豊かなイメージで記事を見せたかったんです。

 

「企画は完全にひとりで考えています」

–– WORKSIGHTはどのような方が読者となっているのでしょうか。

山下:年に2回発行しているマガジン版は、オフィスインテリアやオフィスビルの企画を考える方などいわゆるプロフェッショナルユーザー、また経営者などの意思決定者に読まれており、業種で言えばサプライヤーサイドの方が多いですね。一方、Webは裾野が広く、業種業態に関係なく25歳から35歳くらいまでのワークスタイルに興味・関心の高いビジネスパーソンが読者です。

オフィスデザインに携わるプレイヤーは多種多様で、興味関心や進む方向がバラバラになりがちです。市場そのものを広げていく上で非常にもったいない。だからこそ、WORKSIGHTは業界の論点を整理すべきだと思っていますし、グローバルで進んでいる方向を示して、各プレイヤーがその市場を安心して開拓していける灯台のような存在になりたい。実はこうした市場を育てようという姿勢は海外のサプライヤーから学んだことです。市場が広がらない内から競合で争うことなく、まずはみんなでムーブメントを作り市場を広げる。その後で自分たちの取り分を考えようということなんです。

 

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–– では、業界の論点を整理するための企画はどのように作っているのでしょうか。

山下:企画はエッジを立てるために完全にひとりで考えています。そのやり方がいいかどうかは迷いながらですが。テーマと取材先を決め取材を実施。その後の執筆・編集を編集プロダクションやデザイン会社と共に進める形です。また、社内から企画に関してあれこれ言われることも、コクヨの事例を載せることもありません。時には、コクヨ自身を裏切ることも重要だと考えています。それが企業として成長の伸びしろになるわけですから。企画づくりはあくまで客観的な視点に立って『いま何が論点なのか』に主眼を置いています。

たとえば、海外では数年前から、日本では来年から本格的に注目されるであろうスマートワークプレイスというテーマ。来年ソフトバンク本社がスマートビルとして大々的にオープンすることもあり、テクノロジー×ワークプレイスについて企画に落とし込みました。一般的に家具メーカーがテクノロジーを苦手としていたとしてもです。(参考:『ソフトバンクが2020年度中の本社移転を発表! AIやIoTを活用したスマートビルに!』)。

7割くらいは確からしい未来のテーマを扱いますが、残り3割は今後どうなるか分からないような話題を取り上げていますね。直接的には働く環境に関係ない話だろうけど、ひょっとしたらつながっていくかもしれないといった題材です。最近の例で言うと、ミレニアル世代を中心として巻き起こっている「リバタリアニズム(自由至上主義)」の思想を取り上げました。そういう思想を持った人たちが今後社会のメインストリームになっていったときに、どんなインパクトがあるのかを考えておきたかったんです。

 

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慶應義塾大学SFCの教授、渡辺靖さんを取材した記事

山下:企画の発想は社会変化から考えることもありますし、具体的なオフィス事例から着想することもあります。急成長するスタートアップのニュースを見て、彼らのワークスタイルはどうなっているのか、と考えることも。オフィスの記事ひとつ作るにしてもアイデアソースは無数に存在しています。

 

雑誌が営業で活用されプロジェクトが始まることも

–– Webが主流になっている時代で、WORKSIGHTは雑誌を発行し続けています。なぜでしょうか。

山下:むしろ注力しているのは雑誌のほう。Webよりも読者の反応や成果が分かりやすいんです。

 

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山下:BtoBの現場で使われるわけですが、実際に雑誌がきっかけとなって受注が決まったり、プロジェクトが始まるなどの動きが恒常的に起こっています。セールスチームが訪問機会を作るきっかけにもなりますし、持っている知見をアピールすることもできます。日常的な業務活動の中でリアルに活用されていくのが、フィジカルな雑誌だと分かりやすいんです。

–– 山下さんはWebでは見えないものがあると言います。

山下:正直に言って、私自身はWebの正解がよく見えません。WebではPV数によって多く読まれた記事が分かりますが、読者の顔を感じることは難しい。また経験的に、Webで面白かった記事を読んでも、どの媒体かを覚えていないことが多々あります。たとえ、バズったとしてもWORKSIGHTやコクヨの認知がどれだけ広がっているのかは疑問だなと。PVやUUをどこまで重ねれば成功と言えるのかは分かりません。むしろ雑誌を中心とした読者コミュニティの方に可能性を感じています。

–– コクヨ社内でもWORKSIGHTは雑誌のイメージが強いそうですね。

山下:Webの記事は、NewsweekやForbesといったメディアで定期的に転載いただいた時期もありますし、他のニュースメディアからも提携依頼を頻繁にいただきます。もちろん記事の拡散は積極的にしていきたいですが、数よりも影響力の高いひとりに届けばガラッと状況が変わるという視点もあると思うんですよね。だからWebも雑誌のようなロングメディアを目指しています。息が長く、読者に深く入っていくような、読ませる記事を作っていくことを意識していますね。

 

事実を伝えるだけでは情報価値が低くなっている

–– WORKSIGHTのこれからの課題は何でしょうか。

山下:1つ目は社内の情報流通です。WORKSIGHTでは最先端事例をノウハウとして持っていますが、その事例にビビッドに反応し、コクヨのプロダクトやサービスにダイレクトに反映する動きをもっと強めていきたい。2つ目は、もっとメディアパワーをつけていくことです。メディアパワーがないと海外の取材交渉で苦戦します。企業の担当者を直接知っていれば取材は通りますが、そうでないと難しいのが現状です。

 

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山下:3つ目は、情報価値が相対的に低下していることです。簡単に言うとライバル専門誌や一般誌でオフィスに関する記事が増えたということですね。前身のエシーフォの時代はWebが今ほど活発ではなかったので、雑誌で先端事例を紹介するだけでも十分な価値がありました。しかし現在では、WORKSIGHTの掲載事例の単純な情報なら、検索で簡単に集められてしまう。つまり、事実だけを伝えるだけではメディアとして不十分ということです。

–– 事実の紹介に留まらない発信として、山下さんは分析レポートを挙げました。

山下:「私たちはその事実をどう考えているか」、分析の視点へとシフトしていかなければならないと思っています。たとえば、事例をいくつか横断してインサイトを探ったり、トレンドを分析したりするコンテンツは有効ではないでしょうか。あとは「WORKSIGHTが実際にオフィスを作ってしまいました」というような、リアルを巻き込んだものをやってもいい。イケアのイノベーションラボ『Space10』では、世の中に課題を提示したうえで、さまざまな人を巻き込んでプロトタイプを作り、その内容をメディアでも発信しています。そうした実体を伴ったメディアにチャレンジできればいいなと思いますね。

 

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–– 最後にWORKSIGHTが実現したい未来の姿を聞きました。

山下:これから労働人口が減っていく日本では、みんなが9時〜17時で働くスタイルだけでは労働力が足りなくなります。こうした現状を打破するにはもっと柔軟なワークスタイルを浸透させるべきですが、まずはその論点を整理して社会的なアジェンダを設定することが必要です。日本では個人の力が非常に弱いですが、誰かが音頭を取り、一丸となることで、初めてチャレンジがしやすくなります。働き方改革というお題目が設定されたとき、多くの会社が安心して取り組めるようになりましたよね。私たちがその下地を作るために論点を提示して、ムーブメントの火付け役に回れればと思っています。

 

WORKSIGHTが目指している場所は明確でした。未来を見据えて業界の論点を整理するという軸を持ち、深く読ませるコンテンツでキーパーソンのアクションを起こす。企業が運営するオウンドメディアの方向性を再考するきっかけになるのではないでしょうか。

 

●Interview & Text : 弥富 文次

●Photos : 多田 圭佑

●取材場所:Think of Things

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