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企業の「伝えたい」より、読者の価値観が大切。 オリックスのオウンドメディア戦略

メインカット:オリックス株式会社 グループ広報・渉外部 宣伝チーム 大塚孝裕さん(左)、滝川ちひろさん(右)

 

オリックスは企業理解、事業理解を目的に広報活動に取り組んできました。メディアリレーションやTVCMだけでなく、Webの活用にも早い段階から取り組んでおり、2014年からはオリックスグループサイト(以下、グループサイト)と呼ばれるコーポレートサイト上にストーリー形式で事業を紹介するコンテンツを展開しています。その流れを踏まえて発展的に始められたのが、オウンドメディア「MOVE ON!」です。

「MOVE ON!」ではデータドリブンなコンテンツ運営をされています。本稿では、「MOVE ON!」をご担当する、グループ広報・渉外部宣伝チームの大塚孝裕さん、滝川ちひろさんに、立ち上げの経緯から現在に至るまでをお話しいただきました。

 

オリックスは何の会社なのか?

大塚孝裕さん(以下、大塚):  弊社が長年抱えている課題の一つに、「オリックスは何の会社なのか?」といった、企業理解・事業理解が難しいことが挙げられます。「何をやっているかわからない会社」というイメージは、就職意向・株の購入意向・サービス利用意向などの場面で弊害になっていると考えています。

 

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オリックスのオウンドメディア「MOVE ON!」

 

これはオリックスにとって長年の課題で、企業理解を高める施策を行っていました。メディアリレーションを強化しながらアーンドメディアで正しく報道してもらうということを続けていましたが、更に強化していくための一手として始めたのが、グループサイト上で弊社の事業を紹介するという記事コンテンツ「オリックスストーリー」です。

その後、2016年に企業ブランディング施策強化の一環として、ペイドメディアにて「Do you know ORIX?」キャンペーンを、TVCMを中心に展開しました。その次はもう一度、オウンドメディアを強化していこうという流れになり、「オリックスストーリー」を担当していた滝川と私のふたりで、2019年4月に「MOVE ON!」を立ち上げました。

 

「何を伝えたいか」からペルソナを仮説立てる

大塚:「MOVE ON!」の立ち上げにあたり、まず、オリックスの特徴は何かというところまで立ち返って考える必要がありました。

オリックスの一番の特徴は、事業・サービスが非常に多岐にわたっているところです。それゆえ何の会社かわかりにくいという事態を招いているわけですが、これは、企業理念にある「たえず市場の要請を先取り」し続けた結果とも言えます。

「変化に対応して行動を起こす」社風を持った企業であることを、ファクトを通じてしっかり伝えていくことで、好意形成につながるのではないか? という仮説を立てました。

この仮説を踏まえ「変化対応の必要性を実感している人」に訴求したい、という議論をしていました。そこから具体化していく過程でかなりディスカッションしましたが、ペルソナは、「20代後半の大企業に勤めている女性」として始めてみようとなりました。

 

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オウンドメディア「MOVE ON!」立ち上げに際し、ディスカッションを重ねてペルソナ、コンテンツの方向性を設定した

 

男女限らず、入社して数年経つと視野が広がってきて、ただ仕事をこなすだけでなく、会社や組織に対して変化の必要性を感じ、社会の動きに会社がついていけていないのではないかという問題意識を抱える人は多いのではないでしょうか。

そういった人たちに対して、「MOVE ON!」を通じて、世の中の変化と、その変化に合わせて前向きに対応している弊社のファクトをお伝えすることで、変化に対して一歩踏み出す勇気をお届けしたい。その先に、弊社への好意形成があるのでは、と考えました。

 

データ分析を繰り返しながらメディアの骨格を作る

大塚:オウンドメディアを通して世の中の変化を伝えるなら、とにかく一定数の記事を出し続けなければいけないとは思っていました。ただ、マンパワー的にすべてを自社コンテンツ(オリジナルコンテンツ)でまかなうのは難しい。自社コンテンツに関しては、少なくとも月に1本は絶対に出すと決め、それ以外はライセンスドコンテンツを活用(メディアからコンテンツ単位で調達)して対応しようと考えました。

オリジナルコンテンツは弊社の事業内容や企業風土、制度などを深掘りするようなコンテンツ。ライセンスドコンテンツは弊社の事業領域に関連する世界のニュースを紹介するというように、掲載するコンテンツの方向性を分けています。この2本柱で、弊社の事業に興味を持っていただけるような動線を意識しています。

滝川ちひろさん(以下、滝川):2020年4月でMOVE ON!を本格的に稼働して1年。コンテンツを多数掲載して、データで振り返るというフローは私たちには初めての経験で、正直なところ、開始して2〜3ヵ月くらいはコンテンツを作るだけで精一杯でした。その後、ようやく分析にまで意識を向ける余裕が出てきました。

その月のデータを見ながら記事の反応などを確認し、翌月の企画に反映させるというサイクルを繰り返し、どのコンテンツのクリック率が高かったか、滞在時間が長かったか、アクションに導いているか、などを振り返りつつ、次に作るコンテンツの切り口を決めています。

 

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「MOVE ON!」以前の「オリックスストーリー」を担当していた滝川ちひろさん

 

数字を追う中で、ある特定のキーワードが、大きくアクセスを押し上げていることが見えてきました。そういった具体的な傾向は、ライセンスドコンテンツ選択の指標となるとともに、そのキーワードとオリックスを掛け合わせたらどういうコンテンツが作れるかといった発想の源になるなど、オリジナルコンテンツ制作へのよい影響も生まれました。

たとえば、「顧客のことを徹底的に考えると『やりたいこと』を描ける~弥生株式会社 代表取締役社長 岡本 浩一郎氏が実践するデザイン思考」という記事は、「デザイン思考」というキーワードから逆算して制作したものです。

他では、「働き方」をテーマにした記事として、「家庭も仕事も守りたい。社員が自らリーダーとなって推し進めた個を生かす組織づくりの実例」が挙げられます。グループ内外問わず、働き方や業務効率について参考にしていただける部分があればという思いで、制作しました。

 

データが示した発信者目線と「読者の価値観」

 

大塚:毎月「MOVE ON!」をデータで振り返る中で、当初掲げていた「世の中の変化を伝えよう」という目的や、それを分解した「社会の変化」「経済の変化」「技術の変化」の3本柱は、すべて発信者目線でしかなかったと気づきました。そういった、頭で考えた仮説によってではなく、データから判明した読者がどんな変化に興味関心があるかといった価値観に寄り添った形でコンテンツの切り口を決めたほうが、わかりやすいものになると強く実感しました。

そこで、2020年5月から、コンテンツの柱を「Sustainability」「Work&Life」「Innovation」に切り替えました。データをもとに、当初の設計から軌道修正できたのは非常によかったと思います。

大切なのは、コンテンツとデータを通じて、ステークホルダーと対話するというプロセスを持つことではないでしょうか。

 

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1年間のデータ検証から新たな発見が得られ、2年目はそれに基づきコンテンツの構成を修正した

 

価値観という話をしましたが、近年ESG(環境・社会・ガバナンス)経営/投資が、日本でも徐々にトレンドになりつつあるとコンテンツに対するデータを見ていても実感します。自分たちの会社は地球の未来にとっても、企業の成長性としてもサステナブルであるということをどうやって伝えていくかは、どの企業にとっても大きな課題なのではないでしょうか。経営が打ち出したい企業姿勢を、オウンドメディアが先駆けて実践できている部分に手ごたえも感じています。

 

オウンドメディアは、「企業理解獲得」の入り口にすぎない

大塚 :「MOVE ON!」以外にも、企業好意や事業理解を深めるためのコンテンツはあります。例えば、グループサイトの企業情報にある「サステナビリティ」や、「個人のお客さま」「法人のお客さま」という事業紹介のページです。

「MOVE ON!」を運営していく過程で、「MOVE ON!」からこれらのコンテンツに飛ばすほうが、読者にとっても理解が深まり、コンテンツもキュレーションしやすいということに気づきました。

 

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オウンドメディアの強化にあたり「MOVE ON!」起ち上げに加わった大塚孝裕さん

 

2年目は、「MOVE ON!」からこれらへの流れをもっと強化していきたいと思っています。この流れを意識することで、「MOVE ON!」でも、それぞれの事業に関連するテーマでオリジナルコンテンツを作ったり、ライセンスドコンテンツを選んだりして、コミュニケーションできる範囲を広げていくことができます。

 

事業にも経営にも期待されるオウンドメディアに

滝川:「MOVE ON!」のオリジナルコンテンツとして各事業を取り上げるなかで、徐々に事業部からの期待も感じるようになりました。最近では、事業部の方からグループサイトに載せてほしいと連絡をいただくケースもあります。

弊社は日本全国に営業拠点があり、担当者による訪問営業が基本ですが、コロナ禍の影響が出る少し前から、Webサイトで情報発信をしてほしいという要望が出始めていました。私たちはオリックスグループの事業情報をグループサイトに溜めていきたいと思って今の施策を行っていますが、現場もそれを有効に使おうとしてくれているのは嬉しいです。現場との連携をもっと強めていって、さらに情報発信できる幅を広げていきたいですね。

大塚: コミュニケーション領域に限らず、デジタルをどう企業活動に取り組んでいくかは経営課題にもなっています。この取り組みがグループ内の先行事例として認知してもらえるように、また今後も事業にも経営にも期待されるように、コンテンツとデータでステークホルダーと対話していきたいと思っています。

 

●Interview & Text : 内藤 貴志

●Photos : 川合 穂波

 

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