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豊かな未来に向けてブランドメッセージを発信ー「Y media」のコンテンツマーケティング戦略

豊作の象徴であるトンボ。その王様といえる「ヤンマトンボ」を社名の由来に持つヤンマー株式会社は、食糧生産やエネルギー変換に関する社会貢献によって、明るい未来と豊かな暮らしの実現に取り組み、「A SUSTAINABLE FUTURE」(持続可能な未来)を企業のミッションとして掲げています。人と自然の調和をテクノロジーを通じて実現するという理念にもとづくこのミッションを、さまざまな取り組みや事例を通して伝えているコンテンツメディアが「Y media」です。

ここでは、「Y media」誕生の経緯や進化の過程、これからの抱負などを、立ち上げに携わったブランドコミュニケーション部デジタルグループ課長の岸田千里さんと、現在の「Y media」制作を統括されている同部広報グループの坂田直輝さんに伺いました。

 

創業100周年のリブランディングを機にスタート

岸田さん(以下、岸田。敬称略):コンテンツマーケティングという考え方が日本で広まってきたのは、3〜4年ほど前でしょうか。それまでのプッシュ型だった情報発信が、徐々に消費者に友好的に受け取られなくなってきた時期でもありました。従来型の広告が有効な場合もありますが、これからの時代は、ユーザーの興味や関心に沿ったコンテンツを提供し、自発的な流入を促すメディアが必要なのでは…そう感じはじめたことが、「Y media」立ち上げのきっかけにつながります。

2012年の創業100周年を機に、企業としてお客様に伝えたいメッセージを整理しようと、リブランディングのプロジェクトがスタートしていました。その一環として、2014年から2016年にかけて各事業やグループ会社で独立していたドメインの統合と、伝えるべきメッセージの統一を目的にWebサイトの大規模な改修を実施します。

 

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ブランドコミュニケーション部デジタルグループ課長の岸田千里さん

 

改修前のサイトには、製品やサービスの紹介ページはあるものの、その奥にあるストーリーやユーザーの興味に寄り添った情報を提供する場がなかったため、このタイミングを好機ととらえ「Y media」をスタートしました。初めての試みでしたので、すでにコンテンツマーケティングを始められている企業さんのサイトも参考にしながら、弊社にとって一番良い形は何か、試行錯誤を繰り返して今の形を作り上げてきました。

 

閲覧数よりも1人あたりの理解度を重視

岸田:ビジュアルを重視する方針は当初からありましたが、検索性を高める工夫などはアクセス解析を繰り返す中で生み出してきたものです。メディアの効果測定で私たちがKPI(主要業績評価指標)に定めているのは、セッション数とページビュー、そしてページあたりの滞在時間。しかし、それだけでは実際の効果を測りきれないところもありますので、「Y media」は将来に向けた投資と捉えて運用をしています。

過去には、セッション数を増やそうと記事広告と連動させたり、ヤンマーの事業とは直接関係がない世の中のホットな話題を取り上げたりしたのですが、一時的に数字が伸びても定着には至りませんでした。そこから学んだのは、弊社のビジネスはある意味でニッチなところをターゲットとしているので、コンテンツマーケティングの定石を取り入れても費用に見合う効果につながるとは限らないということです。

そのため、現在はセッション数の増加よりも、1ユーザーあたりの理解深度に注力し、読了率やアンケートからわかる満足度も指標に組み込むようにしました。アンケートですので回答者数は限られますが、9割近くが面白かったと評価していますので、一定の効果が出ていると考えています。

 

社内評価の高まりと自然流入の増加

 

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ブランドコミュニケーション部広報グループの坂田直輝さん

 

坂田さん(以下、坂田。敬称略):立ち上げは、岸田が所属するデジタルグループで行いましたが、今年度からメディア対応や社外発表関連を管轄する広報グループに運営を移管して、私が担当しています。

スタート時点では「Y media」の社内的な認知度は低く、ネット上の社内報程度に捉えられていたところもありました。しかし最近では、各事業から何らかの発表案件がある際に、プレスリリースやSNSを含む情報発信ツールの1つとして考えてもらえるようになっています。そして、それが具体的に記事になることで、社内でも有用なコンテンツメディアとの認識が高まってきました。

現在の制作・運営は、私を含めて基本的に2名体制です。デジタルグループから広報グループに移管されたメリットは、発表案件やメディア取材、SNSでの情報発信のタイミングを、「Y media」の記事と併せて、より広い層に情報を届けられることです。私たちもその点を意識しながら運営しています。

集客に関する課題の1つは、SNSから「Y media」への流入を増やすことです。Facebookの公式アカウントには7万5千人近いフォロワーがおり、エンジンが好きな方、機械に興味のある方、そして代々続く農家の方々など、コアなファンが多いのが特徴。そうした弊社へのエンゲージメントが高い方たちには、「Y media」の記事も興味深く読んでいただけているものと思いますし、流入データを見ても、コアなファンの方が多く見受けられます。

岸田:流入の内訳でいいますと、最近ではオーガニックの割合が高くなっています。コンテンツの充実とともにSEO対策も効いてきたため、自然検索による流入が年々増えているようです。

 

海外展開とBtoBに起因する課題

坂田:海外版の「Y media」には日本版とは異なる担当者が1名で運用しています。

岸田:過去に、日本版コンテンツを翻訳して海外版に掲載したこともありましたが、ほとんど読まれませんでした。その理由をネイティブのスタッフに訊くと、内容がドメスティック(国内向け)だと言われてしまって…。

坂田:国内とはターゲットが異なることもあり、日本版コンテンツをそのまま流用するのは難しいと実感しましたので、今後は海外向けに特化したチームで運用していこうと考えています。

また、BtoBの企業ならではの課題も感じています。ビジネスへの効果を考えると、弊社の顧客となる企業様向けの記事を制作して掲載する方が効率的ですが、「Y media」としては、一般のお客様にも読んでいただきたい。そうした思いから、幅広い層に興味を持っていただけるように、切り口を工夫するようにしています。たとえば、“野菜の切れ端が熱と電気のエネルギーに変わる”という記事では、どうすれば一般のお客様にも面白いと感じてもらえるのかを考えて記事タイトルを工夫したりしました。今後もこの点は意識して企画化を進めていきたいですね。

 

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戦略的で柔軟な記事作り

岸田:コンテンツのコアにあるのは、弊社の理念である「A SUSTAINABLE FUTURE」というブランドステートメントを広く伝えることです。立ち上げ当初は、弊社社長と世界的デザイナーの佐藤可士和さんの対談や、奥山清行さんがデザインした弊社のトラクターの記事を掲載するなど、メッセージを伝えていました。その後は、このコーポレートメッセージを、各事業体でどのように解釈して実行するのかを伝えていくかが課題に。初めは情報が集まらず苦労しましたが、試行錯誤しながら運用するうちに徐々に内容を充実できる体制が整ってきました。

坂田:企画については、日頃から常にアンテナを張り、「Y media」で取り上げられそうな話題をキャッチするようにしています。直近では、滋賀県にあるヤンマーミュージアムのリニューアルオープンを取り上げました。単なるリニューアルのお知らせではなく、なぜヤンマーがミュージアムを開設しているのかという理由や個々の館内体験の意義も含めて知っていただきたかったため、段階的に紹介していくコンテンツを掲載する戦略を立てて実行したのです。

一連の企画の中には、弊社のマスコットであるヤン坊マー坊とともに歴史を振り返って紹介する記事もありますが、この記事は一般のお客様からの関心も高く、多く読まれていたようです。それから、社外発表の記事からミュージアムの館内を紹介する体験レポートと続き、対談形式で企業活動としてミュージアムに取り組む意味を語るところまで、順次記事を公開していきました。

また、最近では会社として食の事業にも力を入れていますので、BtoC向けの取り組みも増えていく予定です。そうすると、「Y media」では、より幅広い層に興味を持っていただけるコンテンツを増やしていかなくてはなりませんので、ターゲットごとにどのような記事を読んでいただくか、棲み分けを意識しながら記事を作るようになりました。

 

記事の質を上げ集客を増やすための工夫

坂田:ライターやカメラマンは基本的に外部委託ですが、記事のクオリティを維持するために、機械の話であれば機械に興味を持っている方へ、レストランや食の話題ならば少しポップな文章が書ける方というように、業界に精通された方にお願いしています。

岸田:ライターの方はじめ委託業者の方とは事前の打ち合わせも複数回実施し、企画の意図から記事のスタイルまで細かく議論しながら確定していきますので、大きくブレることはありません。

また、SEO対策については、企画が決定した時点で、関連してどのようなワードで検索が行われているかを調べ、記事内に埋め込むようにしています。

坂田:記事タイトルも、議論を重ねたうえで確定していますね。堅苦しすぎると読まれにくくなりますので、ライターから上がったタイトルについて、こちらからも意見を出しながら詰めていく方法で決めています。意識しているのは、長すぎず、かつキャッチーさも忘れないこと。コンテンツもタイトルも、親しみやすさを重視して制作しています。

岸田:集客施策としては、過去に外部メディアとの連携やネイティブ広告を多用したこともありましたが、現在は「Y media」のみの集客を基本にしています。ただ、今後も案件によっては広告との連動も検討していきたいですね。

坂田:10月に「Y media」をリニューアルしました。リニューアル前は、デザインなどを本体サイトの一部として統一していましたが、リニューアル後は独立したメディアと認知していただけるように、見せ方を工夫しています。細かい部分ではありますが、背景色にグレーを置いたり、独自メニューを追随させたりするなどして他のページと違うことを表しています。

岸田:実は、リニューアルにあたって「Y media」を別ドメインにするという議論もありました。そうすることで、独立性が高まるなど一定のメリットも得られますが、既存のビジネスとの結びつきを考えると、コーポレートサイトと同一ドメインのほうが回遊性も高まるため、最終的には同一ドメイン内に置くことにしました。その代わり、デザインやナビゲーションの面で差別化させています。

坂田:「Y media」のロゴも、新たにデザインしたものを採用して新規性を前面に出しています。

 

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また、“コンテンツの質を上げる”ために考えられる施策の1つが、動画の導入です。動画制作は労力がかかるので、以前は「Y media」のために動画制作をすることはありませんでしたが、現在は写真だけでは伝わりにくい情報を視覚的に理解しやすくするために「Y media」向けの動画を制作して掲載しています。その一つが高精度の自動運転を実現した農業機械の記事です。写真一枚だけでは、人が手を動かさず自動で作業ができるという一番の特徴を存分に伝えきることができませんが、動画にすることで初めて本来の特長を理解していただくことができます。弊社の研究開発を紹介する場合も同じ。文章だけでは小難しく感じさせてしまいますが、動画を活用すれば理解がより進みます。これからもそういった案件に動画を活用していきたいですね。

文章の構成と並行して動画の構成も考えなくてはりませんし、両者の統一感も必要なため大変な面はありますが、それだけの効果が上がっているとは思います。そして、記事の探しやすさを向上するために、リニューアル前よりセクション数を減らし、細分化し過ぎないようにしました。良し悪しはあると思いますが、大きなカテゴリーで検索していただくほうが、求める情報にたどり着きやすいと考えたためです。

 

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インナーブランディングから横の広がりへ

岸田:「Y media」を立ち上げてから3年がたち、ようやく社内で何か動きがあったときに、「Y media」でも紹介してくれないかという依頼を受けるようになりました。社内でも認知度が上がってきたと嬉しく思います。

坂田:一度、「Y media」に掲載された記事を見てもらえれば、社内でも情報発信の価値が伝わりますし、他部署の記事を目にして、自分の事業の案件も扱ってもらおうと動く人も出てきています。運用側としては、もっと多様な話題を取り上げ、「Y media」への理解を深めてもらい、活用してもらえるようにしたいですね。

岸田:そういう意味では、「Y media」が、インナーブランディングの役割も果たしていると感じるようになりました。弊社は事業が多岐にわたるので、同じ社内でも事業体が違うと何をしているのかわかりづらいのが難点です。しかし「Y media」は、社員が自分の会社のことをより深く理解するためのツールとしても機能していると思っています。

坂田:弊社はとくにBtoBのビジネスがメインですし、しかも非上場です。理想は、「Y  media」からの情報発信によって、結果的に事業への関心が高まるという好循環が生まれること。最近は、メディアとしてその役割を果たせるようになってきたと感じますね。

例えば農業の分野では、営業スタッフが直接農家さんを訪れて販売するというビジネス形態が多いので、弊社としてお客様向けの情報発信を積極的に行う必要がありませんでした。しかし時代が変わり、農業を継いだ若い方たちなどは自ら情報発信をして収益を伸ばそうと努力されています。弊社としても農家さんに製品を販売するだけでなく、「Y media」を通じて情報発信のお手伝いができるのではないかと考えています。

岸田:費用対効果についてはまだ課題があると思っています。現状では、企業理解の促進に重きを置いていますが、そこから発展させていかなくては新たな広がりが生まれません。

先述したように、立ち上げ当初は、「A SUSTAINABLE FUTURE」の実現につながる外部研究者の話題などを取り上げていましたが、試行錯誤の中で方向性を見直しました。しかし、メディアとしての価値向上を前提にして考えると、企画を復活させてバランスよく配置していくことも視野に入れるべきだと考えています。今後は著名な方々とのコラボレーション記事なども、うまく取り入れていきたいですね。

各事業のお客様は、Webサイトの製品詳細ページをご覧になって情報収集や問合せをされることが多いので、製品情報の充実化も進めているのですが、「Y media」にも事業への問合せに直接つながるような記事が含まれているので、製品ページともうまく連携させてコンバージョンにつなげたいですね。

坂田:将来的には、「Y media」をさまざまなコラボレーションを通じて横の広がりが生まれるようなメディアに育てていきたい。そのための具体的な方策はこれからですが、企業間、あるいは対メディアのそうした広がりが、最終的には弊社のビジネスにもつながり、「A SUSTAINABLE FUTURE」という理念の共有にもつなげることが目標です。

 

お話を聞き終えて

「Y media」は、文字通り「ヤンマーのメディア」。同社のビジネスの根底にある「A SUSTAINABLE FUTURE」というミッションを、広く、深く、多角的に知っていただくために、ビジュアルと質を重視してコンテンツを作り、発信していることがよく理解できました。また、自社に合ったコンテンツマーケティングのあり方を模索し、必要に応じてリニューアルを行う姿勢にも、学ぶべきことがあります。企業風土に馴染むようにじっくりと育てられ、実を結んできたオウンドメディアは、まさに農作物に喩えられるのかもしれません。

 

●Interview & Text : 大谷和利

●Photos : 豊崎 淳 / INFOTO / amana

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